大人のそけいヘルニアについて

そけいヘルニアとは?

ある臓器が、体の弱い部分やすき間を通って、本来の位置から他の部位へ飛び出している状態をヘルニアといいます。ヘルニアは体のいろいろな場所でおこりますが、足の付け根付近(鼠径部(そけいぶ)と呼びます)に生じたものがそけいヘルニアで、「脱腸」とも呼ばれます。子供の病気と思われがちですが、実際には大人の方がずっと多く、日本では年間15万人くらいが手術を受けています。

そけいヘルニアは古くから知られた病気で、紀元前の記録の中にも残るほどです。簡単な病気と考えられてきましたが、合併症や再発などで苦しんできた患者さんもいました。治療成績の向上を目指して、2008年に日本ヘルニア学会が発足し、2015年には診療ガイドラインが出版されました。当科では最新のガイドラインに沿った治療を行っています。

症状

お腹に力が入った状態、例えば重い荷物を持つ、尿や便を出すために息む、咳をする時などに、鼠径部の膨らみに気付きます。最初は小さな軟らかい膨らみで、仰向けに寝たり手で押さえると引っ込みます。膨らみが大きくなると引っ込みにくくなり、重苦しさや鈍い痛みを感じるようになります。膨らみがはっきりしなくても、鼠径部に違和感や痛みがある場合はそけいヘルニアの可能性があります。

ヘルニアの膨らみが飛び出したまま戻らなくなり、強い痛みや吐き気などを伴った状態を「かんとん」と言います。かんとん状態では生命にかかわることがありますので、早急に病院を受診してください。

原因とタイプ

お腹の壁は筋肉と筋膜で支えられていて、鼠径部では筋肉と筋膜が複雑に重なりあっています。生まれつきある小さいすき間や、大人になって出来た弱い部分が穴(ヘルニア門と言います)になり、そこから腹膜や内臓が飛び出してくるのがそけいヘルニアで、穴の場所により、内鼠径、外鼠径、大腿の3つのタイプがあります。

治療法

ヘルニアは、組織そのものが弱くなって起こるので、薬を飲んでもトレーニングで筋肉を鍛えても治りません。手術でヘルニアの穴を塞ぐことが、唯一の治療法です。自覚症状があれば手術を受けた方がよいでしょう。また、女性は男性と比べ緊急手術などの割合が高く、そけいヘルニアと診断されたら手術が望ましいとされています。

そけいヘルニアは悪性の病気ではありませんが、ときに「かんとん」をおこすことがあり、いつ起きるのか予測できません。かんとん状態では腸閉塞や腸穿孔(腸に穴が開くこと)から腹膜炎をおこすことがあります。救命のためには緊急手術が必要になり、飛び出した腸を切除することもあります。

手術と麻酔

当科では、人工膜(メッシュ)を使用した手術を行っています。ヘルニア門を塞ぐとともに、お腹の壁を補強して新たなヘルニアの発生を予防するもので、鼠径部切開法と腹腔鏡手術の2種類があります(表)。

最近は腹腔鏡手術の割合が増加しています。全身麻酔が必要ですが、お腹の中からヘルニア門を観察するので、診断が確実で修復を確認できるためです。

手術と麻酔
鼠径部切開法 腹腔鏡下手術
麻酔 脊髄くも膜下麻酔(下半身麻酔)局所麻酔、全身麻酔でも可能 全身麻酔
手術創 鼠径部に1か所 (4-6cm) 下腹部に3±1か所 (5-12mm)
適している人 ・全身麻酔の難しい方 ・ヘルニアの膨らみが大きな方 (膨らみが陰嚢まで達するような大きな方) ・腹部手術を複数回受けている方 ・日帰り手術希望の方 ・ヘルニアが再発した方 ・両側にヘルニアがある方 ・反対側のヘルニアも疑われる方 ・ヘルニアの診断が難しい方 ・早期の社会復帰を希望する方

妊娠の希望がある方で、比較的小さなヘルニアについては、メッシュを使用しない手術法もありますので、ご相談ください。

入院について

手術は、通常入院して受けていただいております。手術前日に入院し、手術の翌々日に退院する、3泊4日コースを標準にしています。
局所麻酔の場合は、1泊2日コースも可能です。

現在、日帰り手術は行っていませんが、近日中に開始できるように準備中です。