乳癌に対する術前の確定診断は、マンモグラムおよび乳房超音波検査での病変に対する組織診断(CNB)を原則とする。マンモグラムで病変が疑われるが、超音波検査で明らかな病変が指摘出来ない場合には、乳房MRI検査を追加し、セカンドルック乳腺エコー検査を行う事も考慮する。マンモグラムでカテゴリー3以上の病変があり、超音波検査で明らかな標的病変が指摘できない場合には、ステレオガイド下マンモトーム生検の適応を考慮する。細胞診は主に乳房の良性病変の確認・腋窩リンパ節転移の有無の確認の目的で行う。病変の広がり診断は、マンモグラム・超音波・CT・3Tの乳房MRIを用いて行う。
乳腺に対する手術は、根治切除が可能で乳房の整容性が保てる場合には乳房温存手術を原則とするが、患者が希望する場合には乳房切除を行う。
根治切除を行うにあたり乳房の整容性が保てない症例は原則として乳房切除を行う。その際は、乳房再建(同時再建あるいは2次再建)も保険適応となっている事を説明し、同時再建を希望する患者は乳房再建が可能な施設との連携を考慮する。
術前化学療法を行い、腫瘍が縮小し、整容性が保てる場合には乳房温存手術の適応を考慮する。
皮膚温存乳房全切除術(skin-sparing mastectomy;SSM)、乳頭乳輪温存乳房全切除術(nipple-sparing mastectomy;NSM)については希望のある患者さんについてはガイドラインに沿った説明を行う。NSMを選択するにあたっては、乳頭壊死、乳頭部再発、乳頭の偏位の可能性などに関するリスクを十分に説明する。いずれの術式も乳房再建を前提とした術式であるので、乳房再建が可能な施設との連携を考慮する。
臨床的腋窩リンパ節転移陰性乳癌において、センチネルリンパ節生検で転移陰性と診断された場合には、腋窩リンパ節郭清の省略をする。センチネルリンパ節の同定には色素とアイソトープを併用する方法を原則とする。
微小転移の場合も腋窩リンパ節郭清は省略する。全例に適切な術後薬物療法が行われることは留意する。
マクロ転移(2mmより大きい)の場合は原則として郭清を行う。
周術期薬物療法(術前・術後)についてはサブタイプ、ステージ等にもとづき日本乳癌学会ガイドライン、St.Gallenのコンセンサス、NCCNのガイドライン等を参考に行う。全身状態、患者希望等を考慮しつつ最新の分子標的治療等についても常にアップデートした情報をもとに治療を行う。
AYA世代については、妊孕性温存の希望の有無を必ず確認して、希望がある場合には宮城県がん生殖医療ネットワークへ紹介する。
進行・再発乳癌の患者に対してはQOLも重視しつつ、内分泌療法、化学療法、分子標的治療等について常にアップデートした情報をもとに治療を行う。
令和2年4月から遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome、HBOC)の既発症者に対するリスク低減乳房切除術(Risk-Reducing Mastectomy、RRM)・乳房再建術ならびにリスク低減卵管卵巣摘出術(Risk-Reducing Salpingo-Oophorectomy、RRSO)が保険収載となった。HBOC のリスク診断、BRCA 遺伝学的検査、遺伝カウンセリング、RRM、乳房再建術、 RRSO について十分な知識と診療への対応が求められるようになっており、 「遺伝性乳がん卵巣がん症候群の保険診療に関する手引き」「遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン」などを参考に診療を行う。
保健適応となるのは、乳がん既発症例の中では、以下のいずれかの項目に当てはまる方が対象。
また、従来からのPARP阻害薬に対するコンパニオン診断の適格基準を満たす場合も適応となる。
乳房温存手術の選択に関しては、温存乳房内再発のリスクを考慮して、温存可能症例に関しても全摘の選択も提示する。
適切な遺伝カウンセリングが行なえる施設やRRM/RRSOを行なっている施設と連携して診療を行う。